ディジタル信号処理

担当教員

授業の到達目標及びテーマ

 システムを安定に動作させる場合、各部の位置や、傾き、温度などさまざまな物理量をセンサを使って実測し、その出力に基づいて調整を行い、システムが望ましい状態で動作している状態を保つことが必要になる。センサの出力は時間的に連続なアナログ量であるが、システムの調整にはそれらを時間的に不連続なディジタル量に変換したものが用いられる。また、実測で得られたデータには目的とする物理量を反映する信号成分のほかに不要な雑音成分も含まれる。精度の良い調整を行うには、雑音成分を抑えつつ信号成分のみをどのように抽出するかが問題になる。さらに、得られた信号を処理・解析する際には、それらに含まれる周波数成分毎の処理(フーリエ解析)が多用される。本講義は、こうした実際のデータをどのような考え方でどう取り扱っていくのかを解説する。

授業の概要と方法

 講義の内容は、大別して、(1)数学的準備、(2)基本的な考え方とそれに基づく処理手法の理解、(3)応用的な処理手法の理解、に分けられる。(1)では、ベクトルの内積や直交の概念を発展させて関数の内積や直交の概念を理解することが中心になる。関数の直交展開との位置づけてフーリエ級数展開を理解する。(2)ではこれを基にフーリエ変換を理解し、それから派生する一連の変換(ラプラス変換、z変換、離散フーリエ変換)をそれらの応用分野とともに理解する。また、ディジタル処理に不可欠な標本化定理について理解する。(3)では、DSPの基本であるディジタルフィルタリングや、相関関数をはじめ、より高度な応用例について理解する。

授業計画

テーマ内容
1 実空間と周波数空間、関数の直交展開 ベクトルの内積を拡張して関数の内積を定義する。ベクトルのノルムや直交と同様に関数のノルムと直交の概念を理解する。これによって、ベクトルを基底ベクトルで展開するように関数を正規直交関数系で展開する。
2 フーリエ級数展開 正規直交関数形の例として三角関数を用いる場合が、フーリエ級数展開になることを理解する。実際にのこぎり波をフーリエ級数展開し、展開の次数と波形の近似の程度の関係を理解する。
3 フーリエ変換 フーリエ級数展開を一般化していき、定義域を(-∞、∞)としたときがフーリエ変換となることを理解する。このとき、連続量としてスペクトルが得られることを理解する。
4 ラプラス変換とz変換 フーリエ変換は実空間の信号を周波数空間に写像するが、信号の性質によっては適用できない場合がある。こうした場合でも使用できるように減衰項を基底関数に含めることが行われ、これがラプラス変換となる。また、デルタ関数から作ったパルス列と信号との積のラプラス変換としてz変換が定義できる。これらのことを理解するとともに、それらの性質などを知る。
5 離散フーリエ変換と高速フーリエ変換 時間的に不連続な信号(前述のパルス列との積によって作られる)に対するフーリエ変換を考えると周波数空間でも不連続となることが知られている。これらの間の変換を離散フーリエ変換と呼んでいる。このことを理解する。さらに、この変換を高速に行うアルゴリズムであるFFTを理解し自分でプログラムが書けるようにする。
6  標本化定理とエイリアシング ディジタル量しか扱えないコンピュータでアナログ信号が扱えることを保証するのが、標本化定理である。これを理解し、定理の証明が行えるようにする。
7 周波数フィルタリングとディジタルフィルタ 周波数フィルタリングとは何かを理解し、与えられた周波数特性を実現するフィルタの設計法を理解する。
8 周波数スペクトルの推定 観測された信号成分がどのような周波数スペクトルを持つかを調べる手法を理解する。理論上は時間軸上で、-∞~∞の範囲で定義された信号を扱うが実在する信号は有限の時間幅ででしか定義されていない。それの違いに基づく影響を理解するとともに、その影響を軽減するウィンドウの概念を理解する。
9 自己相関関数と相互相関関数 相関関数を求めることは古くから行われている解析法であるが、その意味を理解するとともに、フーリエ変換を用いる計算法を理解する。
10 同期加算と移動平均処理 雑音の量を評価する指標に信号対雑音比(SN比)があるが、これを向上させる簡単な手法の例を理解する。周期信号に対する同期加算法とより一般的な移動平均法を理解する。
11 不規則信号の処理 信号処理の目的の一つに、制御を目的としたシステム(系)の特性の把握(システム同定)がある。この目的のためには、入力となる信号には幅広いスペクトルが要求されるが、それを実現するのが不規則信号である。不規則信号をどのように用 いるかについて理解する。
12 動的なスペクトル解析 フーリエ変換を用いて信号のスペクトルを推定しようとすると、ある時間帯の平均的なものしか推定できない。スペクトルの時間的変化を推定するには、簡単には、時間区間が重なるように計測したデータをフーリエ解析するが、線形予測法が有名である。この手法について理解する。
13 信号成分の分離手法 信号の特徴の違いに基づいて、混ざり合った2つの信号を分離する手法の一つであるケプストラム解析について理解する。
14 ウエーブレット変換 フーリエ解析には限界があるが、その限界を超えるものとしてウェーブレット解析がある。ウェーブレット変換の考え方および応用例などを理解する。
15 まとめ 全体を通してのまとめを行う。わかりにくかった部分を質問してもらい、再度説明する。

授業外に行うべき学習活動

ネット上にオンライン教材を用意しておくので、事前に予習し疑問点などを整理して授業に臨むこと。授業では課題を出すので、復讐を兼ねてレポート作成をすること。

テキスト

必要に応じてネットワークを通じて配布する。

参考書

・森下、小畑: 信号処理、計測自動制御学会(1982) ・添田、中溝、大松: 信号処理の基礎と応用(1979) ・C. S. Burrus, R. A. Gopinath, and H. Guo, メIntroduction to Wavelets and Wavelet Transforms,モ PRENTICE HALL (1998) ・A.Jensen and A.la Cour-Harbo, メRipples in Mathematics, The Discrete Wavelet Transform,モ Springer (2001) ・金谷: これならわかる応用数学教室、共立(2003) ・このほかにも多くの参考書がある。

成績評価基準

 試験の成績(60%)とレポートの成績(40%)によって評価する。

情報機器使用

 資料はネットワークを通じて配布する。

前年度の授業改善アンケートからの気づき

 授業内容が難しいという声が多かったようです。わかりやすい説明を工夫すると共に、ポイントを絞った講義を心がけるつもりです。疑問点があったら気軽に質問してください。

その他

この科目では、観測されたデータから有用な情報を抽出する手法について、基礎的な知識を身につけることを目的としています。音声信号処理や画像処理を学ぶための基礎と位置付けることができます。フーリエ解析を中心に講義を行いますが、このほかにも、システムの特性を同定したり、システムを制御する際の基礎的手法を身につけることができます。この科目では、理解を深めるために課題を出しますので、受講する学生には一定レベルのプログラミング能力を期待しています。また、概念の理解には数学的な議論が多くなるので、線形代数の知識が必要になるほか、統計的な処理に関する知識も必要です。